クルマと情報化

はじめに

自動車は数千種・数万点もの部品から構成されており、鉄・アルミ・樹脂などの多くの素材を使い、機械・化学・電子などの幅広い業種・業界と関係する裾野の広い産業です。開発から始まって部品調達、生産、販売等、業務が多岐にわたっており、さらには近年のグローバルな自動車ビジネス展開の加速を受けて、これら業務が世界の中で有機的に連繋するオペレーションとなってきました。



従って、自動車産業各社の情報化も、今までの設計・生産・購買部門など分野ごとの個別の展開から、すべての業務を連繋し、情報として1本の流れに集約する方向に進んできています。 bmw gt1 bmw obd



多様化する市場ニーズに対応するための、新しいお客様との関係構築や、受注から納車までの迅速化、開発から量産までのリードタイムの短縮等、従来の紙のデータではできなかったことも、市場からのニーズを途切れなく送ってくれる電子データにより可能となりました。



ネットワーク技術の進展は、各種の電子データを必要な部門へリアルタイムに受け渡すことを実現しました。この電子データ・ネットワークも、最初は部門内接続から始まり、企業内へと拡大、そして関連取引先から業界へ、さらには世界へと広がり、グローバルな観点からの対応が必要となってきました。autoboss v30



しかし、多業種・多国間にまたがる各種電子データ・ネットワークの接続は、一企業の手に余るものであり、日本の通信環境・実情を勘案し、日本としてのオーナーシップの確立と国際接続を考慮した取り組みが求められてきました。



日本自動車工業会では、世界に通じる製品設計データ・電子商取引データの各種規格に関係諸国と協調して取り組むと同時に、これらのデータを交換するための通信基盤の整備に取り組んでいます。



本冊子では、日本自動車工業会の電子情報委員会の活動を中心に、自動車産業のオープンネットワーク化と、設計・製造段階における電子情報の標準化についてご紹介いたします。

自動車の開発・生産における情報化の現況と課題

情報化の進展と自動車産業

自動車メーカーは、1970年代以降、設計・開発の段階における1次サプライヤー(部品メーカーなど)などとのCAD(Computer Aided Design:設計図面)データ交換、あるいは部品の受発注・納入指示といった調達EDI(Electronic Data Interchange:電子商取引)を、各メーカー・グループ内に敷設された専用回線や商用VAN(Value-Added Network:付加価値通信網)を使って行っていました。bmw gt1  bmw obd

この早い時期から構築された通信ネットワークによるさまざまなデータ交換によって、自動車メーカーは取引情報伝達の迅速化や、そこから引き出される業務の効率化、リードタイムの短縮化など多くのメリットを得てきました。   tacho 2008



しかし、このネットワークは各メーカー独自のクローズドなものであり、各社個別の回線、固有のシステムを使用しているため、例えば、あるサプライヤーが複数の自動車メーカーと取引を行おうとした場合、取引先の数と同数の回線が必要となり、しかも、アプリケーションごとに固有の専用回線や商用VANなど複数の異なるネットワークに加入しなければなりませんでした。



このことはサプライヤーにとって、多重回線・多端末現象となり、多くの異なるシステムの運用を強いられ、たいへんな要員・コストの負担となっていました。このような状況は、その後の情報化の進展においての拡張性・柔軟性に欠けると同時に、各社間の電子商取引展開の妨げとなり、ひいては自動車産業におけるビジネスの発展を阻害しかねない課題でした



オープンネットワーク化への取り組み

日本自動車工業会(以下、JAMA)は、社会の情報化の急進展を受け、また自動車業界の情報通信化のこうした状況を打破すべく、当会内に電子情報委員会を発足させ(98年)、自動車産業における情報化を促進するとともに、情報化に関わる業界標準を策定・推進し、自動車産業全体としての効率化と競争力向上をめざしてきま

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この情報化促進の基本は、従来、個々のメーカーが進めてきたクローズ(個別)の取り組みからオープン(共通化)へシフトすることであり、自動車産業全体として情報化のメリットを広く獲得することにあります。

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具体的には、CAD*EDI*等の標準化を推進し、各メーカーとサプライヤー、あるいはサプライヤー間同士の容易な情報連繋を可能にすることです。さらには、後述する自動車業界共通ネットワークの構築です。